顔写真 いまをいきる
曽和利光
元オカルト少年。現リアリスト。しかしロマン派の29歳。祖父と一緒にUFOの目撃経験あり。
仕事は怪しげな人事関連のコンサルティング。 将来は坊さんになりたい、仏教ファン。
「昨日や明日のためでなく今を生きる」を合言葉に、 刹那的に飲み歩く毎日・・・たぶん今日も二日酔い。
 


第14回・箱ネズミとメールフレンド


 

 大学の心理学の授業か何かで、こんな話を聞いたことがある。
 ネズミを箱の中に入れておく。箱の中にはレバーがあり、レバーを押すと食べ物が出てくる仕掛けになっている。箱にはいくつか種類があり、レバーを押したときに食べ物が出てくる確率が違っている。ある箱はレバーを押すと必ず食べ物が出てくる。ある箱はレバーを押すとたまーに食べ物が出てくる。ある箱はレバーを押しても絶対食べ物が出てこない。この時、どの箱に入れられたネズミが、一番頻繁にレバーを押すようになるか、という問題だった。
 なんとなく素朴に考えれば、レバーを押して必ず食べ物が出てくる箱のネズミが一番頻繁にレバーを押すように思うが、それが違うらしい。一番頻繁にレバーを押すのは実は「たまーに食べ物が出てくる」箱なのだそうだ。

 この話を聞いたとき、ぼくはちょっと虚しくなった。ああ、生きとし生けるものはみんな同じ原理で動いている。ぼくら人間もちっとも高尚なものでなく、ネズミと変らない原理で動いている。ネズミと同じでもいいじゃないかとも思うけど、やはり人間に生まれたことを特殊な境遇として尊びたい。そういう気持ちがあったから、なんとなくネズミと同じなのが、嫌だった。自分が主体的に自由意志で行っていると思っている行動が、実は心理学の法則で予測できるようなパターンにはまったものであるなんて・・・。
(まあ、それはもう過ぎたこと、もう乗り越えた感情だ。今では同じ原理で動いていることこそ、宇宙と一体であることであると思っている。確かにぼくは宇宙の一部であるさ)

 さて、それはともかく、ぼくらのどこがこの「箱ネズミ」と同じなのか。
 まず、世の中のギャンブルは全部これだ。パチンコはたまーに大当たりするからはまる。競馬もたまーに勝つからはまる。人間関係においては、ずっと自分に尽くしてくれる人よりも、いつもいじわるなのにたまーに優しい人のほうが魅力的だったりするし、厳しい上司がたまにほめてくれるのは、甘い上司がいつもほめてくれるよりも快感だ。また、人間は想像力があるので、実際には「食べ物」が与えられなくとも、その日を夢見て頑張れる(いわば自家製ご褒美)。何回も司法試験を受けて落ちて、それでも諦め切れないAさんや、101回目のプロポーズの武田鉄也(古いな)は、このタイプかな。

 最近ぼくにもメールフレンドができた。しかし、その人はちょっとつれない。と言うか、ぼくが思うほどの頻度ではメールの返事をくれないのである(おそらくそれは、寂しがり屋のぼくが求めすぎているだけなのだろうが)。しかし、この適度なつれなさがぼくをメール中毒にさせる。何度もレバーを押しては(メールチェック)、たまにやってくるメールにほっとする。あのときの箱ネズミが今ここにいるなあと、こんな文章を書いてしまった。




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